第95話「蝉」百物語2013目次

語り:通りすがり丸
306 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 06:47:34.72 ID:hqzLBEKk0
【第九十五話】通りすがり丸様 「蝉」
小学生だった夏休みの時の出来事。
8月も終わりに近づいていた。
そこらじゅうに蝉の死骸が転がっていた。蟻が蝉の羽を巣へ運ぶ。雀が蝉の骸を啄んでいる。
蝉は他の小動物にとって夏の終わりのご馳走なのだなと思った。

みょんみょん~♪
音程の外れた蝉の声がした。
草むらから猫が一匹出てきた。クチから蝉の羽がはみ出している。猫に喰わえられてるから羽を自由に動かせず、音痴のように鳴いているのだと分かった。

突然、透明人間に首を捕まれたかのように、猫が立ち上がった。二本の前足で空中を蹴る動作をしている。
この猫はいったい何をしているのだと思った瞬間、猫の頭がまるで扇風機のように、残像現象を伴い激しく回転したかと思うと、猫の頭部が地面に転がったのだ。

何が起きたのか分からなかった。僕がその場に立ち尽くしていると、猫のクチからモゾモゾと蝉が這い出てきた。その蝉は体が真っ赤で目玉が黒い、見たこともない種類だった。

真っ赤な蝉は、ヘリコプターのように垂直に浮かび上がると、僕の頭の高さに停止した。
そしてあっという間に空へと飛び去ってしまった。
あとには首の千切れた猫の骸だけが残った。【完】