第82話「Yちゃん」百物語2013目次

語り:明け方の通りすがり ◆ba.9piYOfg
264 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 05:40:23.56 ID:hqzLBEKk0
【第八十二話】明け方の通りすがり ◆ba.9piYOfg様『Yちゃん』

(1/2)
小学校高学年の頃、私のクラスにYちゃんという女の子がいました。
Yちゃんは物静かでおとなしい、クラスでも目立たない存在の女の子でした。
しかし、月日が経つにつれ、Yちゃんは徐々にクラスの輪の中心に立つようになっていきました。
何がきっかけで、という具体的なエピソードは覚えていないのですが、その当時学校で流行っていたこっくりさんを初めとするオカルト遊びが原因だったと思います。
Yちゃんは霊的なものと会話ができるらしく、Yちゃんが参加するこっくりさんはいつも大成功をおさめていました。
クラスのみんなはYちゃんに相談事をお願いしたり、刺激的な体験を求めたりするなど、Yちゃんの周りにはいつも人が集まるようになっていたのです。

しかし、ある時そんな日常を一変させる出来事が起こります。
日ごろからYちゃんの催す心霊イベントに参加せず、Yちゃんのことをどこか訝しげに見ていたガキ大将の男の子が初めてはっきりとYちゃんに難癖をつけてきたのです。
放課後、いつものようにYちゃんを中心にこっくりさんを行っていると、その男の子が急にこちらへ近寄ってきて机の上の紙や硬貨を思いっきり手で払いのけました。
男の子はYちゃんのことを「目立ちたがり屋の嘘つき女」、「霊なんて本当は見えてないんだろ」と一方的に罵り、周りにあった机や椅子を思い思いに蹴飛ばしていきます。
ガキ大将の男の子が言うことです。他の男子も同調してYちゃんを嘘つきよばわりし、女子はYちゃんを庇ってそれに応酬する等、教室の中は一瞬にして怒号が飛び交う地獄絵図のような光景になりました。


265 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 05:41:43.19 ID:hqzLBEKk0
(2/3)

やがて、騒ぎを聞きつけた先生がその場を一旦収めてくれたのですが、この事件は大事になり翌日の全校集会で校長からオカルト遊びと放課後の無用な居残りを禁止するお触れが出されるまでに至りました。
お触れの効果は絶大で、程なくして我が校のオカルトブームは終焉を迎え、Yちゃんも元の目立たない地味な女の子へと戻ってしまいました。
私もあの日起こった騒ぎのことはあまり気に留めずにいたのですが、一つだけ何となく心の中にひっかかっていることがありました。
それは、先生が場を収めた後、みんなが渋々帰宅しようとしているときに、Yちゃんだけがその男の子の方をジッと見つめぶつぶつと呟いていた姿です。
独り言なのか何かと会話しているのかわかりませんが、目を真っ赤に腫らし、青白い血の気の引いたYちゃんの形相はまさに夜叉を思わせるような不気味な顔つきでした。

数年後、私は私立の中学校に進学し、そんな出来事もすっかり忘れていたころ、地元の友達からガキ大将の男の子が亡くなったというメールが届きました。
あまりに晴天の霹靂の出来事に初めは事情が呑み込めなかったのですが、詳しく話を聞いてみるとその男の子は日ごろからガラの悪い連中と夜遅くまで遊び歩いていて、その日も車を持った先輩たちと夜中からドライブをしていたそうです。
ハメを外し過ぎていたのか、スピード超過の軽自動車はカーブを曲がりきれずにそのまま電柱へと突っ込み、助手席に乗っていた男の子はほぼ即死状態の無残な姿で発見されました。
若気の至りが引き起こしたよくある事故と言えばそうなんですが、少し気味が悪いなと思ったのはその男の子以外はみんな無傷だったということです。
人間だけではありません。ピンポイントに助手席だけがベコッと凹んでいて、その他の部分は本当にきれいなまま。まるで、その男の子だけを狙いすましたかのような奇妙な衝突の仕方だったそうです。
それを聞いた私は何故かふとYちゃんの事が気になり友達に彼女の近況を尋ねてみました。
すると、友達はちょっと驚きながらも「Yちゃんはちょうど事故があった日の翌日から学校に来ていないよ…。」と答えたのです。


266 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 05:42:18.64 ID:hqzLBEKk0
(3/3)

結局、放課後の事件と男の子の事故に関係性があったのか、Yちゃんがどうして事故の翌日から学校に来なくなったのかは未だにわかりません。
Yちゃんはあれから一度も登校してこなかったそうですが、精神病院に入院したとか自殺したとか根も葉もない噂が広がるばかりで、誰もYちゃんのその後を知る人はいませんでした。
今でも時々地元の友人に会うと亡くなった男の子の話題が出ることがありますが、私はその度にYちゃんのあの恐ろしい顔が頭をよぎり背筋が少しゾクッとします。
「人を呪わば穴二つ」
私の心配が杞憂であればいいとは思うのですが…。

[了]