第81話「堀のヌシ」百物語2013目次

語り:可部 ◆7vU/OMinzs
260 :可部 ◆7vU/OMinzs:2013/08/24(土) 05:30:45.50 ID:f8yflt3K0
『堀のヌシ』

1/3
小学校時代に知り合いに聞いた話です。
自分の地元には大手掘という堀があって、そこにはヌシが住んでいると言われていた。
知り合いに主を見た事のある者はいなかったが、噂では白い蛇、とも黒い大魚、とも
言われていた。
小学校5年の時、自分のクラアスメート3人(A、B、Cとする)が大手掘に釣りに行った時も
そんな噂を面白半分に話しながら現地へ向かったという。
堀につくと3人は釣り糸を垂れ釣り始めた、目的は魚でなくザリガニだったらしい。
3人ともなかなか釣れないので、またヌシの話を始めた。
ヌシが掛かる時は昼でも急にあたりが暗くなり、生臭い風が吹くという
ヌシを掛けてしまった者は、たとえ糸を切り離しても呪われて半年以内に死ぬという
また、ヌシを完全に釣りあげた者は未だ誰もいないという

3人は、間違ってヌシが掛かったらどうしようとか冗談交じりで話していたのですが
途中でAがトイレに行きたくなり、竿を岸辺の岩に固定して近くの公衆トイレまで行ってしまい
BとCが取り残されました。
それからしばらくして、なぜか急にあたりが暗くなり、どこからともなく生臭い風が吹いてきて
そして、BとCの竿にほぼ同時に引きが来たのでした。
BとCは本当にヌシが掛かったんではとパニックになり、そこへAも戻ってきたのですが
Aは他人事だと思って「どっちかにヌシが掛かっとるな」とか言って面白がってる
碌でもないやつである


261 :可部 ◆7vU/OMinzs:2013/08/24(土) 05:31:24.48 ID:f8yflt3K0
2/3
こわごわとBが竿を上げると、強い引きだった割に小型の鮒だった
残ったCは半泣きになって目をつぶって竿をあげたが、こちらは木の枝が引っ掛かって
いただけだった
2人ともホッと安堵したが、そのときBがあることに気付いた
岩場に固定してあるAの竿にも引きが来ていたのだ
指摘されたAは蒼ざめてしまい、3人一緒に引こう、などと調子のいい事を言いだすが
残りの2人は当然拒否で、結局Aは意を決して「わーっ」と大声をあげつつ竿を上げた
ソレは一瞬だけ水面に顔を見せた、でかくて赤い魚だった、
すぐに針が外れてしまい、一瞬で水中に戻ったが、あれがヌシかどうか3人で言いあいに
なり、その日はケンカ別れでとっとと帰ったという。


262 :可部 ◆7vU/OMinzs:2013/08/24(土) 05:35:43.21 ID:f8yflt3K0
3/3
その後、黒い魚でも白い蛇でもなかったんだからあれはヌシじゃない、
と強弁していたAだったが、数ヵ月後に入院、白血病だったようで、しかしAは回復し
同じころBが交通事故で死んでしまった。
自分がこの話を聞いたのはAが学校に復帰した翌年になってからだった。

大手掘のヌシって小さい鮒だったのか??
と思ったが、6年になったAが得意げに「俺は呪いを他人に転化する方法を教わったんだ」
と言いながらこの話をしてくれたのだった
さすがに真偽が疑わしいが、Aも死にたくなくて必死だったらしい
大手掘りのヌシはとりあえず大きな赤い魚ということとなった

【了】