第6話「川を渡る怪異」百物語2013目次
語り:林 ◆gw0BWXAi52
- 20 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:19:30.98 ID:OQvF2fgG0
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《川を渡る怪異》
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小学生の頃の話です
家の近くに○○大橋という橋があって、その下の川原で僕らは子供の頃よく遊んでいた
小学3年の夏休みのある晩、友達とその川原で花火をして遊んでいて、夜11時を過ぎた頃
ひとりが突然「あれ何だと思う?」と川の方を指差した。
見ると川から何かが岸に上がってきており、みんな一斉にそっちに注目した
初めは動物かと思ったが明らかに違う
全身が青白く、二股に分かれた大根のようで、その二本足で歩いている、不気味な姿だった
そいつは僕らの前をとぼとぼと歩き、道路の方へ登って行って、そして消えてしまった
今のは何だったのか、明らかにマトモなものではない
高さ60センチくらい、立って歩いていたが人間にしては小さすぎる体
夜で暗くて10mほど離れていたためそれ以上はわからなかったが、みんな怖くなって
後片付けもそこそこに花火を終わらせて帰った。
- 21 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:20:34.52 ID:OQvF2fgG0
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2/6
翌日になって僕は俄然、アレが何だったのか興味がわき、昨日の花火の時の仲間で当時特に
仲の良かった中嶋の家に行った
期待した通り中嶋もアレに興味を示しており、二人でアレの正体を調べようと意気投合した
アレはきっとまた夜に現れる-僕も中嶋もそう考えた
もう一度夜に大橋の下の川原へ行って調べよう、ということになった
2日後、僕は10時過ぎにこっそり家を抜け出して中嶋と合流した(中嶋の家は夜間外出OKだった)
二人で石投げや棒倒しをしながら夜を待つ
しかし現れない・・・
やっぱダメか?と諦めかけていた所へ中嶋の弟が自転車でやってきて1kmほど下流の御影橋の
近くにこの前のやつがいると言う
僕も中嶋も慌てて自転車に乗って御影橋まで駆けつけたが既に何もいなかった
中嶋が弟に何でしっかり見張っておかないんだ、とやつあたりしてたが、僕らでも怖い物を
小学1年の中嶋弟には無理な相談だっただろう
- 22 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:22:51.28 ID:OQvF2fgG0
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3/6
次の夜、僕と中嶋は大橋と御影橋の間を手分けして見張った
11時頃、やや御影橋よりの川の中に中嶋が遂にアレを見つけたのだ
真っ暗な川だったが、ぼうっと薄く光って見える、僕も中嶋も興奮したが、何か変である
アレが川の向こう岸に動いている
僕らは川の右岸にいるのだが、アレは左岸に進んでいるのだ、しかも水の中とは思えない速度
何であっちに行くんだよ、とボヤくが仕方がない、今から追いかけても速度的に間に合いそうにない
と僕は思ったが、中嶋の方は自転車をこいで御影橋から回り込んで必死に向うの岸まで追いかけた
右岸からずっと見ていた僕はアレが左岸に上がったあと素早く斜面を登り、急に消えたのを見た
消えたあとに白い光が小さく見えたがそれもふらふらしてやがて消えた
そこに自転車の中嶋が駆け込んできたが、僕は大声で「もういない」と言うしかなかった
汗だくで戻ってきた中嶋が悔しそうに言った
「アレはきっと川のあっち側とこっち側を毎晩行き来してるんだ」と
いったい何のために? もしその予測通りなら明日はこっち側にくるという事になるけど
- 23 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:24:02.99 ID:OQvF2fgG0
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ここに来て連日のもどかしさから中嶋が、人数を増やしてケリをつけると言いだした
友達に三谷というのがいて顔が広く、こいつを引き込んで翌日夕方には10人ほど集まった
この人数で大橋と御影橋の間をくまなく探し、見つけたらみんなで捕まえる作戦だ
夏休みの小学生の妙な集団を周囲の通行人が不思議そうに見ている
夜になり、初めはあちこちでデマや空騒ぎが起こってウンザリしていたが、11時過ぎ
大橋のやや下流の川の中でアレが見つかった、こっちに向かってくる
こっちに来たのは良かったが、全員あらためて異様な怪異にすくんでしまった
たれか突撃かけないかな~とか思っているうちにとうとうアレは上陸してきた
以前見た時と同じ姿、不器用に見えるが意外と滑らかな動きだ
僕らは遠巻きに見ていたが、アレは道路の前で不意に消えた
すぐ上に白い球のようなものが浮かんでいる、昨日見た白い光はこれだと思い
僕は「あの玉だぞ」と叫んだ
- 24 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:24:26.89 ID:OQvF2fgG0
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5/6
相手が逃げそうに思うと小学生は俄かに元気が出てわぁわぁ言いながら追いかけまわす
一度は見失ったが結局、アレは近くのS神社の森に入った
僕らは大興奮で神社の塀を乗り越えたて突入を試みたが、神社の人が気付いたようで
ここでやばいと思った中嶋がみんなを解散させた
翌日も僕らは当然やる気満々だった
しかし神社から学校に苦情が行ったらしく、僕らは学校に呼び出されて2時間ほど説教
そのうえ僕は夜中の外出がばれて家でも親から説教された
これにより前夜までのような行動は不可能になった
中嶋はその後も単独で夜に川へ出かけ、本人が言うには あの白い玉が左岸からは近くの
N神社に飛ぶ事を調べた
夏休みが終わると中嶋はアレはきっと神様だ と言いだした
バチが当たるとヤバいから俺はこれ以上調べない、と言いだす
正直、僕も含めてみんな中嶋の報告に期待したので失望した
しかしアレが神様なのか
- 25 :林 ◆gw0BWXAi52:2013/08/23(金) 21:25:03.23 ID:OQvF2fgG0
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6/6
学校から強く叱られたことと中嶋が降りたことで、2学期になってアレの事はみんな
急速に冷めてしまった
しかし10人以上が同時に見たのだから間違いのない話だ
--最近の話--
最近知ったがS神社とN神社はどちらも春日神社で、つまり同じ神様を祀っている
もしかしたら本当に神様が双方の神社を1日おきに訪れていたのかもしれない
しかし春日神社にあんな神様が祀られているのだろうか
その後、中嶋は東大に進み僕も関西の某国立大に進んで今は県外にいる
中嶋とももう長いこと会ってない
あの時の事は懐かしい思い出になってしまった
今でもアレは夜の川を毎日渡っているのだろう
-完-