第12話「蝋燭」百物語2013目次
語り:わたくし ◆O0RKwPn0UQR0
- 44 :代理投稿 ◆nqnJikEPbM.8:2013/08/23(金) 22:02:30.91 ID:1Ytbuggr0
-
【第十二話】 わたくし ◆O0RKwPn0UQR0 様 『蝋燭』
(1/3)
百物語といえばズラーーーッと並ぶ蝋燭が思い浮かびます、んン、まァ中には、
「蝋燭なんて邪道だィ、え、百物語は灯心だよォ、油でもって、ぇえ、これをグゥーっと……」
なんて、自分の胃に油を注いじゃったりしてンですね
もう半分、もう半分で100L飲んでるン、ねぇ、化物ですよ、ううン
まあ、蝋燭、ぅう、この、若い方には馴染みが薄いンじゃないでしょうか
バースデーケーキに刺さってたり、聖歌隊が持ってたり、あれはキャンドルってンですか
そういうイメージが強いと思いますが、ぇえ、わたくしが子供ン頃は違いました
白熱灯でもって照らすのは居間、と、あとは土間くらいですから、廊下なんかは真暗ですよ
そういう時に蝋燭……ぅう、350ml缶程度の大きさですが、これは大変に重宝致しました
で、また、蝋燭で暗ァいところを歩くっていうと、まぁ、雰囲気がありますよ
足元を照らすようにして歩きますから、ぇえ、廊下の奥まで灯りが届かない
夜になって戸締りをすると、これはもう、表の方が明るいという事になります
さて、
わたくしの幼い頃、ま、当然ですが実家に住んでおりました、山奥の古ゥいお家でございます
ぅう、江戸の世から建ってるってンですから、土地の使い方が贅沢ですね
何かってェと湯やご不浄なんかは外にあったン、あぁ、ご苦労様でございますな
- 45 :KMT ◆nqnJikEPbM.8:2013/08/23(金) 22:03:27.38 ID:1Ytbuggr0
-
(2/3)
ぇえ、子供っていうと、夜中に目が覚めてご不浄に……なんて事は滅多にありません
ゴロンと横になるってェと、こう、すとーーーんっと眠りに落ちて、朝まで起きませんから
ただ、んン、やっぱり日本地図を書くのは嫌いですからねェ、起きる時は起きるン
起きてしまうと、昼間とはまるっきり勝手が違います、こう、全然違う家になってる
ぇえ、目が覚めますと真暗です、ぅう、真暗ですが、どうも、その、もじもじっと来てる
隣で寝ております弟や従兄弟は熟睡してますから、揺すっても煩がるだけで、これは起きません
仕方が無いってンで、枕元の蝋燭に火ィ灯して、暗い廊下を一人ぽっちで歩きます
ぎしっ、ぎぃっ、ぎぃっ、ぎしっ……この軋む音が嫌なんでございますが、
ぎぃっ、ぎしっ、ぎぃっ、ぎぃっ……と、先を睨むようにして歩きます
そうしますと廊下の突き当たりが来る、L字に曲がってるんですね
L字カーブってのは大人でも怖いですよ、先に何があるか曲がるまで分かんないですから
ですから怖い、ぅう、怖い、けども、迷ってる時間はほとんど無い
意を決して……ひょこ……と、ね、L字の先を覗きますってェと……
だァれも居ない、当たり前です、夜の夜中ですから誰も居ないのが真っ当です
「あーあ、怖かったァ」
なんて意気揚々と歩ってって、無事に用を足せた訳でございますな
- 46 :代理投稿 ◆nqnJikEPbM.8:2013/08/23(金) 22:05:03.23 ID:1Ytbuggr0
-
(3/3)
ぇえ、すっきりした顔でお家に入ります
するってェと月明りも遮られちゃって、もう蝋燭の灯りだけですから……お家ン中はやっぱり暗い
もう無性に怖くなっちゃって、土間の上がりに腰掛けて朝まで待とうかしらってンですね
どれほど経ちましたか……ふ、と風が吹いた
蝋燭の灯りが消える、並の蝋燭じゃありません、ただで消える筈が無い、でも消えた
「ウううううッ」
壊れた赤べこみたいに目を走らせますってェと……何か立ってる
廊下のL字から半分だけ見える、もう、怖いんだけども、目を離す事が出来ない
段々々々暗がりに目が慣れてきます、相手の形が闇ン中に浮かんでくる
するってぇと茶色だか紺色だかの浴衣を召してる、んン、男性のように見えた
「あ、お父さんかなッ」
てんで、タターッと近付こうとしますと、男性の手がするっと胸元まで上がった
その手でもって、こう、おいで、おいで……おいで、おいで……おいで……ってやり始めた
もう怖くて怖くて、大声でもって泣いちゃったンですな
大人達がバタバターッと土間の方に走ってくる気配がする、パラッと居間に灯りが点く
「どうしたのッ」
ぇえ、これは母だったように思いますが、わたくしを抱えて心配そうに聞いてくる
わたくしはもう顔中ぐしゃぐしゃにしながら、
「頭の無い人がそこに立ってたの」
この話は今もって、もう、ずうぅぅっと覚えてる事なんですがね
子供ン頃の話だってェと、えらい馬鹿にされますよ、まあ、お気持ちは分かります
ぅう、ですから話さなくなりました、でも、今夜はちょっと話したくなった
それでは、蝋燭の火を消しましょっか……フッ
【了】