第11話「バイト先の話」百物語2013目次

語り:50 ◆YJf7AjT32aOX
39 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/23(金) 21:58:45.07 ID:ME+Mw9fw0
50 ◆4gJVpc7IX.  『バイト先の話』

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カラオケ店というのは心霊現象がよく起こる場所だと言われる。
その理由は、土地に対する部屋割りの効率を上げる為に廊下が入り組んでいるため、
迷い込んだ霊が出て来れないからだとか、電気機器が大量にある為影響を受けやすいだとかがよく言われる。
「つくり話だろ」なんてよく言われるけど、正直実際に現場で働いている人間からしたら
「ああ、あそこの店舗も居るんだ?」
と普通に会話にあがってくるほどよくある話だ。
僕の働くカラオケ店でも、系列の店で「出ない店」を探すことの方が難しいくらい出る店ばかりだし、当然僕の店でも出る。

僕の勤める店には女の子の霊が居て、物陰から覗いていたり、
閉店後で誰もいない筈の2階で、ドタドタ走り回る音がしたり、
何も揚げていないフライヤーで「ジュワーーッ」といかにもポテトを揚げ始めましたと言わんばかりの音がなる。
それが昼夜問わず起こるものだから、女の子は大概悲鳴を上げて辞めていってしまう。

今でこそ、本職を別に持っていて、休日の忙しい時間帯にしか働いていない僕だけれど、
3月まではフリーターとして小さなこの店舗を1人シフトで回していた時期があった。
女の子のいたずらが頻繁に起こったのはそんな時期だ。
ちなみに、僕がこの店舗に入ったのは1月なんだけれど、最初から苦手と感じるルームがあった。
2階の角にある13番のルーム、といういかにも幽霊に出てくれと言わんばかりのその部屋。
なぜか、その部屋に入ると息が出来なくなるのだ。
ただ、換気が悪くて息が出来なくなる、というだけならわかるのだけど、明らかに誰かに
胸を圧迫されるような息苦しさなのだ。
僕自身がよく「土地に拒否される」体質で、同じ息苦しさを感じることがよくあったので
「ああ、いつものやつか」と気にもとめていなかった。
幸い、部屋で感じる息苦しさも勤務時間が増えるのに反比例してと薄らいでいたので、「許してくれたのかな」と安心していた。


40 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/23(金) 21:59:40.95 ID:ME+Mw9fw0
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自分に初めて心霊現象とおぼしき現象が起こったのはバイトを初めて3ヶ月が経とうとした頃。
手始めは、早朝に閉店した後、掃除も終え帰りの準備をしていた時に聞こえた階段を降りる音だった。
平日の閉店は1人で行うため、店内には自分以外に誰もいない。
噂には聞いていても、初めて聴いた「たったったっ」っという足音は本当に怖かったため、その日は逃げるように帰った。
それから、上記のような現象が起こりだしたのだけれど、他にも別のスタッフと一緒に居た時には、誰もいない筈の厨房で「パーンッ!」とはじけるような音がして、
慌てて見にいったら落ちている筈のない場所に、フードを運ぶお盆が落ちていた、なんてこともあった。

そんなある日のこと。
その日の僕は早番のオープン担当で、9時頃店に入った。
一度店に入ってタイムカードを押し、その後野菜なんかの在庫を確認して買い出しにいくのだ。
何故かその日に限って、僕の心はざわざわしていた。
正直店の鍵を開ける前から、このまま開店せずに帰りたいぐらいの気持ちになっていたのだけれど、
これも仕事と割り切ろうと思った。

冷蔵庫を確認したところ、料理に使うネギとレモンが切れている。
「買い出しにいかなくちゃなぁ」と裏口を振り向いたその瞬間、


41 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/23(金) 22:00:39.28 ID:ME+Mw9fw0
(3/3)

「わっっっっ!!!」


自分の耳元で息づかいとともに、大きな声が響いた。
「うわぁぁぁ!!!」
今までの現象と今日の気分で溜まりに溜まっていた恐怖が爆発し、僕は猛ダッシュで外に出ると
「頼むからそれだけは止めてくれ!!!」
周りに人が居れば思いっきり引かれるほどの大声で扉に向かって叫んだ。

その日の仕事中、料理の仕込み作業で厨房にいた僕の後ろでは、今まで聴いたことの無いような大きな音で
「ジュワーーーーッ」
女の子が何かを揚げる音が延々とし続けていました。

その後も、プライベートで遊びに行ったときに窓の外から覗かれたり、
しまいには黒い影として部屋の中に入り込んで来ていたり、
色んな悪戯はありますが、叫ばれたのはそれが最初で最後です。

見える人曰く悪意は無く、純粋に構ってほしいだけの霊らしいので、
毎日のように店にいた僕に遊んで欲しかったのかもしれません。
霊にあってみたいという方がもしいらっしゃいましたら、
僕は真っ先にカラオケ店でのバイトをオススメします。
僕の店ではたまにしか起こらないけれど、お客の居ない部屋からフロントに電話がかかってきたり、
信じたくないような現象も結構頻繁に起こりますから。

[了]