第93話「峠道」百物語2013目次

語り:葛 ◆PJg/T8DlUQ
301 :葛 ◆PJg/T8DlUQ:2013/08/24(土) 06:40:13.07 ID:LMkZGz9sO
【第九十三話】
「峠道」

深夜、某県の有名な心霊スポットである峠道を走行していた
新道だし、怪談だって所詮大袈裟に尾鰭のついた噂だろうと自分を鼓舞しながら、首筋に触れる生暖かい風に何とはなしに身震いする
それは、取り立てて怪異に遭遇することもなく峠を登り終え、下りに差し掛かった時だった
喉が渇いたので助手席に置いたペットボトルに何の気なしに伸ばした手が、何かひんやりしたものに触れた
「!?」
驚いて傍らを見ると、運転席と助手席の間から、白い腕が伸びていた
その腕は、まるで気付いて貰えて嬉しいというように手をひらひらと動かしながら、

おもむろにサイドブレーキを引いた

急な減速にハンドルを取られ、車が滑る。車内にはクスクスと楽しそうな女の笑い声が響き渡る
耳障りな笑い声は、峠を降りるまで続いていた
後日、ボンネットを開けると内側に無数の手形がついていたが、あの笑い声との関連は解らない

以来、あの峠道は使っていない