第9話「隣を見てごらん」百物語2013目次

語り:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ
34 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/23(金) 21:45:53.59 ID:ME+Mw9fw0
【第九話】 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 様 『隣を見てごらん』

友人の話。

彼がまだ小学校に上がる前の話だ。
夜、母親の運転する車に乗っていた。
助手席でうつらうつらしていると、誰かが耳元で囁いた。

「よく暢気に寝ていられるね。
 ほうら、隣を見てごらん」

寝惚け眼で運転席を見ると、そこにはハンドルを握った化け物が座っていた。
黒くてザラザラの皮膚、曲りくねった角の生えた頭、目は真っ赤に血走っている。

悲鳴を上げて逃げだそうとし、ドアを開けようと暴れ回った。

「何してるの、危ないじゃないっ!?」
大きな怒声に我に返ると、狼狽した表情の母親が、彼を真上から覗き込んでいた。
いつの間にか、車は路肩に停められていた。

「寝てたと思ってたら、アンタいきなり暴れ出してドア開けようとするんだもん。
 慌てて車を停めたけど、チャイルドロック掛けといて本当に良かったわ」
そう言って安堵の息を吐く姿は、いつも通りの優しい母だったという。

「母さんが化け物に見えていたってことは、本人には話していない。
 ただ悪い夢を見ただけって、あの時はそう説明して押し切ったよ。
 あの時の気持ちはよく覚えていないけれど、多分色々と怖かったんだろうな。
 口に出しちゃうことで現実になったらどうしよう……っていう感じね。
 しかしあの声って、一体全体何だったんだろう?」
そう言って彼は顔を顰めた。

【了】