第55話「ホテルの地下に」百物語2013目次

語り:雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ
189 :代理投稿 ◆UiIW3kGSB.:2013/08/24(土) 03:15:01.74 ID:8Pjhrnqs0
【第五十五話】 雷鳥一号 ◆zE.wmw4nYQ 様  『ホテルの地下に』

友人の話。

彼が高校の修学旅行へ行った時のことだ。
最終日に泊まったホテルは、綺麗だが、どことなく古びた印象を与える建物だった。
風呂上がりに地下へ続く小さな階段を見つけ、そこに居合わせたメンバーで下りてみた。
長い長い階段の先にあったのは、コンクリート造りの牢獄だった。
それも一つや二つではなく、明かりの届かない奥の方まで、鉄格子がずらっと続いている。

慌てて上階へ駆け上り、ロビーにいた先生を呼んで、もう一度あの階段へ向かう。

地下に下りる階段は失くなっていた。
ただ、階段があった筈の壁に、何かを塗り込めたかのような痕が見受けられた。
しかしそこが塗られたのは随分と昔のようで、短時間で成せるものではない。
まるで何かに化かされたような気持ちになったという。

旅行から帰って数週間後、あの時の先生からおかしな話を聞かされた。
「修学旅行で使ったあのホテルな、どうやら大昔は病院だったらしいぞ。
 それも精神科の。地下に隔離する特別病室があったということだけど……。
 あの夜お前らは、うっかりと変な空間へ迷い込んだのかもしれんな。
 まぁ今回は何事もなくて良かったが、今後、勝手な行動は慎むように」
先生は話の最後を、そう説教に変えて締めくくった。

「あのまま、ずぅっと奥の方へ行っていたら、どうなっていたんだろうな」
そんなことを考え、ちょっとだけゾッとしたのだそうだ。

【了】