第41話「大雨の先に」百物語2013目次

語り:50 ◆YJf7AjT32aOX
143 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 02:00:28.38 ID:hqzLBEKk0
大雨の先に。

(1/3)
僕の友人Aは色んなものを見る。
運転していたとき、目の前に飛び出されたとか
元働いていた職場が霊道になっていて、店内を色んなものが通るとか。
僕も僕で家が神社に仕えていた家系らしく。
たまに変なものをみたり、声が聞こえたりする。
これは、そんな2人で出かけたある夜の話。

その日は、新年度も始まってすぐ。
地元から2時間ほど離れたホールに演劇を観に行った帰りだった。
そのホールに向かう道路には2つの大きな国道がある。
1つは、一度海側に出て海沿いをひたすら走る国道。
もう1つはひたすら山の中を走っていく国道。
地元が山で、海沿いの国道よりも山沿いの国道が近いし渋滞に巻き込まれることもないとあって、
僕ら2人でホールに行くときは、たいがい後者の国道を使うことが多かった。
ただし、その国道は道沿いでの心霊の噂も絶えないような道でもあった。


144 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 02:01:28.44 ID:hqzLBEKk0
(2/3)
演劇を2公演観たあとということで、帰りの時間はすっかり夜になっていた。
さらに運の悪いことに、その日はとてつもなく天気が悪かった。
春の嵐よろしく雨風が吹き荒れ、ホールの出入り口から目の前に駐車した車に乗り込む
たった数十秒でさえ全身びしょ濡れになってしまうほどの悪天候だった。
視界も最悪。
いつもなら山沿いの道は街灯も少なく、道も細い。
天気が悪くておまけに夜ときたら怖くて、遠回りでも海沿いの国道にわざわざ遠回りするのだけれど、
何故かこの日だけはしなかった。
今思えば、その時点で何かに呼ばれていたのかもしれない。

とりあえず、真っ暗な道を僕の運転でひたすら進む。
視界は相変わらず最悪、車内にも雨が車に叩き付けられる音が響いている。
道中は酷かったけれど、その時の僕らは演劇の興奮が覚めやらぬ状態で、
外の悪天候なんて気にもしていなかった。
ホールから車を1時間ほど走らせた頃、Aと遊ぶときの恒例で、演劇の興奮は
いつしかどこどこで何を見た、とか、僕のバイト先に出る女の子の霊の話だとか
心霊話にすり替わっていた。
外は、先ほどまでの大雨はどこに行ったのだろうと思えるほどましになり、
逆に気温が下がったのか霧が少し出始めていた。
そんな頃、昔からの住宅街の細い道を抜けた先にあるカーブにさしかかった。
そのカーブを曲がった所に交差点があるのだけれど、少しXのように斜めに交差している。
周りは田んぼで見通しがよく、信号はこちら側が青。
ほどほどにスピードを保ったまま交差点に進もうとした。
そう、「した」のだ。
そこまで、楽しく話していた2人が同時に固まった。
目に見える光景が信じられなかったのだ。


そこには道が無かった。


145 :50 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 02:02:12.53 ID:hqzLBEKk0
(3/3)
いや、正確にはあった。
ただ、自分が記憶していた方向とは明らかに違う方向に伸びた道だった。
僕「えっ?!」
A「え、っちょ、えぇ?!」
僕は思わず交差点の真ん中で急ブレーキを踏んだ。
明らかにXの形の交差して出来たくぼみの部分に道が伸びていたのだ。
本来ある筈の道は目を凝らさないと見えないほどだった。
数秒凝らして本線を確認すると、ようやく徐行運転で交差点を通過した。
通過したあと、
A「何か伸びてたよね?あんなところに道なんてあったっけ???」
僕「ないないない」
A「見たらダメなものをみた気がする…」
僕「同じく…」

さすがに怖くなり、いつもより早い段階でもう1つ下に伸びる明るい県道へ降り
その日はなんとか無事に家に帰りました。
後日談だが、この日の事をAと話していた所、
A曰く「実はあの時、本当の道が全く見えてなかったんだよね」
あの道が伸びていた方向には、かなり大きく頑丈な看板が1つ立っていて、
もし運転していたのがAで、もし気付かずあのスピードで突っ込んでいたら。
その可能性を想像すると本気で怖くなる。
機会がなくて最近はあの国道を通っていないのでまた道が見えるのかはわからないし
あの道の先に何があったのかも知ることは出来ない。

ちなみに、「なんとか」無事に帰った、というところでも、
実はその道を見たあとの道中で、Aの体の一部が麻痺したり、
僕が脚だけが横の歩道を歩いているのをみたりなんて色んな不思議現象もあったのだけれど。
これはまた別の機会に。

[了]