第78話「自殺の名所」百物語2013目次
語り:KMT ◆nqnJikEPbM.8
- 252 :KMT ◆nqnJikEPbM.8:2013/08/24(土) 05:02:34.68 ID:kFPsVjJM0
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『自殺の名所』
F県には観光の名所としても、また自殺の名所としても良く知られている崖がある。
その崖の近くに住むT君から聞いた話だ。
T君一家はずっとそこに住んでおり、T君の父親はその地元の自警団に属していたらしい。
しかし、自殺の名所の近くと言うこともあって、見回りをするよりも自殺者の引き上げに借り出されることの方が多かったと言う。
その日もT君の父親は声がかかり、早速死体の引き上げに向かったそうだ。
その死体が上がったのは海流が入り組み、崖に打ち寄せる危険な場所だったそうだ。
出来る限り船を近づけ、岩壁に打ち上げられた死体に向かって鉤付きロープを投げる。
グッ、と手応えがして、死体に鉤が食い込んだ。
「よし、引けぇ!」
合図に合わせてロープの先を持った男達が一斉に引っ張る。
一瞬の抵抗の後、死体が岩壁からズルリ、と動いた。
「その死体、な。3人分だったんだよ。海流の関係か何かは知らんが、毛糸球みたいに絡まりあってな…
お前も、ここでだけは死ぬんじゃないぞ?」
T君の父親は、この話をいつもこう言って締めくくっていたそうだ。
【了】