第65話「よく視える」百物語2013目次
語り:狗◆NikuJ1/fzk
- 216 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 04:09:30.81 ID:hqzLBEKk0
-
【第六十五話】 狗◆NikuJ1/fzk 様 (1/3)
私が以前勤めていた会社にいたOは、いわゆる「よく視える」タイプの人種だった。
昔から急に足の先が痛くなる持病があったのだが
入社した2日後、残業しているときにまた痛みが再発してきたとき
向こうの席からトコトコと歩いてきて
「まあ、入ったばっかの、そんなにアレな感じな人にいうのもあれだけど
・・・その足にしがみついてるのがいるからだ、って知ってる?」
と、話しかけてきたのが、そいつとの付き合いのはじめだった。
そんなOに、今まで一番怖かった経験ってなに?と聞いたことがある。
Oは考え込み、
「うーん・・・人に話すと、全然怖くないって言われるけど
俺的には一番怖い話はあれだよな。」
と話し始めた。
・・・・
Oが小学校の頃、一番嫌な時期が夏休みだった。
元々父親と離婚していて、なおかつ母方の実家ともあまり仲が良くなく
普通夏休みなら田舎に帰ったり、遊びに連れて行ってもらえたりするが
そんな家庭環境だとそうもいかず、休み中は暇になることが多かった。
特にお盆の時期だと皆が帰省して遊ぶ相手がいなかったとの事。
- 217 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 04:10:10.47 ID:hqzLBEKk0
-
(2/3)
ただ小3の、その年はいつもよりも帰省する人が少なかったのか
このご時世不景気だからなのか、いつもの集合場所の公園に行くと
友達が待っていることが多かったそうな。
だからその年の夏休みは充実していて楽しく
近所の川で遊んだり、裏の森で探検ごっこしたり
昼から集まり、暗くなるまで遊んで、最後は公園でバイバイ。
「また明日遊ぼうな」「じゃあまた明日ね」
そして次の日もまた公園に集まり・・・・
まわりから見るとそうでもないかもしれないが
Oにとっては物凄く充実した、楽しい夏休みだったそうだ。
さてそんな夏休みを経て新学期
学校に登校してクラスに入って、クラスのみんなの顔を見て
夏の思い出を話そうとしたとき、ふと思い出す
「俺、誰と遊んでいたんだっけ?」
- 218 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 04:10:44.82 ID:hqzLBEKk0
-
(3/3)
遊びに行った場所も覚えているし、遊んだ内容も覚えている
そして遊んでいた奴らの顔も名前も覚えていた
さっき、教室に入るまでは。
でも、今は何も思い出せない。
そしてそんな奴らは、
このクラスにも、学校にも、近所にも、どこにもいない
・・・・
「な、みんなそんな微妙な顔してたよw」
確かにおどろおどろしい内容でもない。けどなんとも言えない気味悪さはある。
「でもその時を境に色々見えるようになっちゃったから思い出深いんだよな」
『誰のことも思い出せないの』
「さっぱり。顔も名前も声も何人いたかも性別も。なんもかんもさーっぱり
でも遊んだ内容も話した内容も全部覚えてるんだぜ。
遊んでた友達の事だけが完全に記憶から消えてる。本人からしたらゾッとするよw
・・・・でも一番怖いのは」
『怖いのは?』
「独りで毎日あんなにはしゃいでる俺の姿を見た人の、気の毒そうな視線が怖いな、とw」
本当にこいつが怖いと思っているのかは、疑問だ。
【了】