第38話「自販機」百物語2013目次
語り:濡れ鼠◆B3nPnRjnc6
- 130 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 01:39:20.25 ID:hqzLBEKk0
-
【第三十八話】濡れ鼠◆B3nPnRjnc6様【自販機】
(1/4)
自販機。
人が住んでいる場所には大概ある文明の利器。
現代においてはむしろ見かけない場所を探すほうが難しいかもしれない。
でも中には何でこんな場所に、と思うような場所にも佇んでいる事がある。
山奥、人気の無い道沿い、トンネルの近く等々。
買う人間なんているのか?という場所に置いてあるのを見ても、そこは余りに見慣れたもののせいか不思議がる人は少ない。
ある夏の晩だった。
車で遠出したはいいものの、細い山道に入り込んでしまい迷っていた。
煙草を蒸しながら地図と睨めっこするが、現在地が皆目分からない。
付近に民家も無ければ、車で通る人もいない。
途方に暮れていると少し先に自販機が見えた。
喉も渇いたし丁度いいや、と硬貨を投入してコーヒーのボタンを押すがうんともすんとも言わない。
返金レバーを捻っても反応なし。
- 131 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 01:40:18.70 ID:hqzLBEKk0
-
(2/4)
「冗談だろ?おい!」
幸いにも自販機に連絡先の電話番号があったのでかけてみると、対応した相手は始終申し訳なさそうに謝ってきた。
どうやらすぐに来てくれるそうだ。
ついでに大通りに出る道でも教えて貰えないかな~、などと虫のいい事を考えながら煙草を蒸している時だった。
「やだぁぁぁぁぁああああああ!!!」
耳を劈く様な叫び声が聞こえてきた。
ぽとりと煙草を落として慌てて周囲を振り返るが誰もいない。
気のせいか、と再び煙草に火をつけようとした矢先。
「かえして・・・・・・かえしてよう・・・・・・」
今度は暗闇の中で耳元に誰かが話しかける声。
ヒュっと声にならない悲鳴を上げて、無意識のうちに明るい方へ。気が付くと自販機に背を預けてへたりこんでいた。
暗闇からスーッと白い、細い何かが伸びてくる。
その暗闇からは尚も
「ねえ・・・・・・かえ、して・・・・・・」
という背筋がざわつく様な声。
- 132 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 01:42:08.34 ID:hqzLBEKk0
-
(3/4)
ファーーーーーーン!
そんな大音響と光が山道に飛び込んできたとき、ふっと息が軽くなったのを感じた。
一台の車、自販機にジュースを補充する時に見かけるようなトラックのライトがこちらを照らしていた。
「大丈夫ですか?」
慌てて運転手が駆け寄ってきて抱え起こしてくれた。
何分経ったのかは覚えていないが、こちらが落ち着くのを見計らって運転手が
「自販機からお金が出て来ないって聞いてきたんですが」
と切り出してきた。
実は、と説明をすると運転手は申し訳なさそうに謝って、すぐにガチャリと鍵で自販機を開いてくれた。
何気なく自販機を覗き込んで、ぎょっとした。
自販機の裏。
そこにはびっしりと御札が貼り付けてあったのだ。
その後、運転手はお金を渡しながら、大通りへの道順を丁寧に教えてくれた。
そして別れ際に、ここは出る所だから近付かない方がいい、とも。
- 133 :代理投稿 ◆YJf7AjT32aOX:2013/08/24(土) 01:43:46.21 ID:hqzLBEKk0
-
(4/4)
後で知ったのだが、昔、その自販機から少し入った山の中で女の子の遺体が捨てられていたのが見つかったらしい。
乱暴されて殺され、見つかった時には獣に食い荒らされていたのだという。
皆は人が通らないような場所で自販機を見かけた事は無いだろうか。
そんな自販機を見つけたら注意した方がいい。
それはもしかするとジュースを売るためではなく、別の目的で置いてあるかもしれないのだから。
[了]