第16話「幽霊の見え方」百物語2013目次

語り:KMT ◆nqnJikEPbM.8
60 :KMT ◆nqnJikEPbM.8:2013/08/23(金) 22:36:10.59 ID:1Ytbuggr0
『幽霊の見え方』

N市では、ある廃墟が有名な心霊スポットとして知られている。
小さな二階建ての廃屋で、外壁は白く塗られており、窓が抜け落ちている。
近くの海岸線に車を停める所もあるため、夏には肝試し目当ての連中で賑わうのだそうだ。
そこには確実に幽霊を見る方法がある、と地元で噂されている。
その方法と言うのは、明りを消して4人が部屋の四隅に一人ずつ立ち、全員で部屋の中央を指差すのだという。

大学生の四人組がそこを訪れ、実際にその方法を試してみたことがある。
その中にAさんがいた。
半信半疑だったAさん達は冗談を飛ばしながらいっせーのーせっ、と部屋の中央を指差した。

いい加減腕がだるくなってきた頃に、全員が一斉に息を呑んだ。
最初は暗闇に目が慣れて、対面にいる相手が見えたのかと思ったが、それは良く見ると老婆だった。

誰かが叫んだのを皮切りに先を争うようにして窓から飛び出した。
全員が車に乗り込み、すぐさま出発する。

口々に、見えた? お前も? 俺も見た! と確認しあった。しかし、どうも話が合わない。
Aさんの対面にいた奴は、中年の男が見えたという。
Aさんの右隣にいた奴は、子供が見えたという。
Aさんの左隣にいた奴は、若い外国の女が見えたという。

なんやかんやと言い争って、車中にふっと沈黙が訪れた。
赤信号で停車した時に運転していた奴が、そういえば、あの幽霊、お前のこと指差してた、とAさんに言った。

今度は誰も異論を唱えず、そうだ、Aを差していた、と口々に皆が言った。

「真正面にいたのは俺だけですから、俺しか見えなかったと思うんですけど……」
Aさんに見えていた老婆は、顔を歪ませ、満面の笑みを浮べていたそうだ。

【了】